【連載】 日本農業経営大学校 学生レポート

日本農業経営大学校 学生レポート
 このコーナーでは、日本農業経営大学校の学生さんがレポーターとなり、様々な農業現場を発信します。今回のレポーターは、2年生の岩切啓太郎君。地域に根付いた企業モデルを知るべく、株式会社飯尾醸造の5代目当主・飯尾彰浩社長にお話を伺いました。

△岩切啓太郎君(左)と飯尾彰浩社長(右)


地域社会を育む、お酢屋の挑戦。

 日本農業経営大学校の岩切啓太郎です。今回は、私が志す農業と日本が抱えている問題や課題をもとに、地域に根付いた企業モデルに取材をしました。取材先に選んだのは、京都府宮津市にある(株)飯尾醸造です。5代目当主、飯尾彰浩社長が取材に応じてくださいました。今回の取材は、今後一農業者として参入する私にとって、多くのヒントや現状を知る機会となりました。

● 創業124年の歴史と価値創造

 同社の創業は明治26年、今年で124年目になります。日本三景に指定されている天橋立で有名な宮津市は、山と海に囲まれ、人口僅か1万8千人の風情漂う田舎町です。その町の中心部から少し離れた海沿いに同社があります。道路沿いの看板に掲げられた富士山のマークと「富士酢」の文字が通行者の目を留め、蔵の外にまでお酢のまろやかないい香りが感じられます。
  
(写真左)地域の風景。奥には海も見える。/(右)お酢のパッケージ

 飯尾醸造は、お米の生産からお酢造りまで全て自社で手掛けている、日本で唯一のお酢屋です。具体的には、お酢の原料となる無農薬のお米を作り、収穫したお米を元にお酒を仕込み、日本古来の製法で2年間という年月をかけてお酢を造ります。ここまでして素材や製法に「こだわり」を持つのは、大きな理由があります。戦後、日本が当たり前のように使いだした農薬。当時、農家にとっては重労働からの開放と生産性の飛躍的向上が図られ、効率よく日本を食料難から救った画期的な道具であったと思われます。しかしながら、農薬の使用による人体や環境への影響について心配される中で声を上げたのが、3代目当主でした。「無農薬」という言葉が理解されにくい時代でもあり協力者を探しだすのは非常に苦労されたようですが、昭和39年から、宮津市のとある集落と共に作った無農薬のお米を原料とし、お酢造りに取り組まれました。

 その想いや技術を受け継いだ4代目・5代目は、更なる挑戦として様々な商品展開や事業展開をされていきました。それは「地元の方々の活躍できる場の提供」という意味もなしています。地域にバリューチェーン・サプライチェーンの可視化がなされていることは、最大の安心と信頼を生むことにもなります。飯尾醸造は地元の生産者と消費者の人と人との距離感と、人が生きていく上で大切な食と農の距離感を常に意識されています。「関わり合う全てが身近な存在であって、対等な立場で認め合う」という社長の言葉からも、お金では計り知れない価値創造を未来にも受け継ぐという強い意思を感じました。

● 今後の挑戦

 2017年7月、お酢屋では例を見ない、夜のみの営業のイタリアンレストラン「acEto」を地元・宮津市に開店されました。飯尾醸造でつくられたお酢を使用し、地元の若狭湾で獲れた新鮮な魚と地場野菜を使ったコース料理が提供されます。また、近々、古民家と蔵を改装した建屋の中で、鮨屋も開業される予定です。飲食店を開業する理由は、「今まで以上に広い範囲で地域社会に潤いをもたらすため」とお聞きました。

 そして2025年には、「京都府の丹後を日本のサンセバスチャン(スペインで最も著名な観光地のひとつ)にする」との目標を掲げられています。その中で、シェフや鮨職人を育成する場の提供や、地元離れした若者がUターンしたくなるほどの魅力ある町へと生まれ変わる仕組み作りをしています。1次産業~3次産業まで多くの需要が生まれ、仕事・雇用の増加や生活の豊かさなど、相乗効果を生みながら丹後地域を盛り上げることにも繋がります。進化し続ける飯尾醸造の勇姿ある行動は、周りが賛同するほどの想いの強さと協力者との信頼関係があっての挑戦であると思います。

● 取材を通して…

 一企業が地域社会のどのような位置づけで、どのくらいの影響を及ぼしているのか、また、地域との関わり合いの中での想いの共有と、新たなる挑戦から生まれるモノの偉大性を感じました。そして、自分がこれから果たせる役割は何なのかを考えさせられました。
 地元のヒト・モノの資源に価値をどれだけ見出せるかで行動は変わってきます。未来への可能性は自ら作っていくものであり、私も発信源として地域社会貢献と農業に全力で携わっていきます。


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